今日仕事から家に帰ってみると、妻が妙にニヤニヤしている。

どうしたのかと理由を尋ねると、家の前を通った空き缶回収のトラックを追いかけて空き缶の山を届けたら、降りてきた運転手さんが「ああ、お嬢さん、ありがとう。」と言ってくれたらしい。トータルで、3回ぐらい「お嬢さん」と言われたとか。

「私、二十歳ぐらいに見えたかなあ。」と、いつまでもニヤニヤが止まらない。

単純な奴め。敵の策略とも知らないで。

と言いながらも、ふとある出来事を思い出した。

あれはもう、10年以上前のこと。

ベネッセの会社にイチゴを売りに行った時、たまたまそこに居合わせたパンの移動販売車を操る販売員のお姉さんと話す機会があった。「将来はこの業界で独立して、パン屋さんをやりたい。」と夢を語る彼女は、おそらく20代前半だったろう、わたくしのことを「おじさん」とは呼ばずに、「お兄さん」と呼んだ。

ちょっと嘘を感じて、「この女、心得ているな。できるな。」と冷めた目で見たんだけれど、未だに覚えているということは悪い気はしなかったんだろうと思う。彼女にシンパシーを持たなかったと言ったら、大嘘だ。すっかり策略にはめられている。

誰でも、若く見られるということは嬉しいもの。
「お嬢さん」と「お兄さん」は、人の心をとろけさせる魔法の言葉に違いない。

あのお姉さん、今頃元気で自分のパン屋さん切り盛りしているだろうか。

08WOR18A