ぼくが在籍し、6年半かかって卒業した愛知県立大学というところは、鬼のような(^_^;)大学でありまして、1年次の体育4単位が必修でした。前期の2単位は難なく取れるのですが、後期の2単位取得のためには涙ぐましい努力が必要でした。

水泳だったのです。2単位のために、毎回毎回出席が求められ、極めつけとして、最後の試験で2種目それぞれ100m泳がなければならなかったのです。泳げなければ「D」、すなわち単位不可でした。

ぼくはそんなに泳げなかったのです。平泳ぎで50m、クロールは25メートルが限度でした。
最初の頃こそまじめに出席していたものの、絶対に泳げないことは明らかなので、次第に出席のモチベーションは失われていき、とうとうリタイアしてしまいました。水泳なんぞに行く手を遮られる理不尽さに、怒りの向け先も無く。(向けるとしたら、泳げるようにならない自分か。)

しかし、世の中にはぼく以外にも泳げない人はいるわけで、こんな掟を厳格に適用していたら卒業できない学生が続出してしまいます。そんな学生のために救済策が用意されてありました。
4年次に体育を取って、15回出席すれば自動的に2単位与えられるという不文律があったのです。1年生と一緒に泳ぐというカッコ悪ささえ我慢すれば、道は開けました。

4年次だったか5年次だったか6年次だったか忘れましたが、ぼくも多くの先輩が通ったのと同じ道、後期体育を取り、せっせと出席を稼ぎました。すべては、なりふり構わぬ「卒業」のために。

そして、なんとか出席が15回に達し、これで無罪放免だー!と喜んだその時、先生の悪魔のような言葉がぼくに投げつけられました。
「テストを受けなさい。泳げなければ、単位は与えません。」

呆然自失。泳げるわけない。しかも、1年生が見ている前での醜態は、あまりにカッコ悪いではないか。しかし、卒業のためには、泳ぐしかない

試験の日。平泳ぎは、なんとか沈むようにして100mたどり着きました。問題はクロールです。息継ぎができんのです。

飛び込みなんかできないから、促されるようにしてプールの水の中に滑り込む。時間は、刻々と迫る。ああどうしよう、自信無い。決意も定まらない。ホイッスルが鳴ってしまった。もう行くしかない。どうにでもなれ。

ぼくは、プールの壁面を蹴って、果てしなき航路へ泳ぎだしました。

毎年イチゴの収穫期が始まる時、あの泳ぎだした時の気持ちを思い出します。5月までの6か月間、収穫して販売して、作業して、全部やりきる自信などありません。心の準備もできていないし、体も疲れ切ったままです。でも、イチゴは突然増えます。ぼくは、「その時」に背中を押されるようにして収穫を始め、お客さんに連絡させてもらうのです。

イチゴが始まりました。今期もどうかよろしくお願いします。

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