日本語に、「さ」という助詞があります。
ハチのムサシは死んだのさ (終助詞)
あのさあ、俺さあ、この前さあ (間投助詞)
とかいう場合の「さ」です。
実は、原岡山弁には、この「さ」はありません。だからぼくは、どの年齢でもどこの場所でも「さ」が使いこなせませんでした。要するに下手くそで使えなかった。よーしゃべらんかったんです。
高校までは岡山ですから、もちろん使えません。しかし、大学で名古屋に行ったら、周囲みんな「さ」です。友達みんな使っていたら、普通は馴染んで自然に使えるようになったりするもの。しかし、強いコンプレックスがあったんでしょうね。使おうと思うとすごく構えてしまって、うまくしゃべれません。周りのみんなは全然気にも留めていないのに、「さ」と言った途端気恥ずかしくなり、自分で勝手に崩れていってしまいました。最終的には、もうぼくには才能が無いと諦め、「さ」無しの言語生活を確立し、今日まで生き抜いてきました。
大学時代に岡山に帰省した際、同じ時期に東北から帰省した友達に会った時のこと。
彼が開口一番、「俺がさあ・・・。」と始めやがったんです。そのあとすぐ気が付いて、「ははは、”さあ”なんだよ。」と、ちょっと自嘲気味とも誇らしげとも取れる表情で笑いました。ぼくは内心、「この裏切り者。俺の気も知らないで。」と憤懣やるかたなく、コンプレックスと自己嫌悪を倍増させて名古屋に帰る羽目になりました。
しかし、その友人も、今は岡山にいて「さ」が使えていません。我々の世代には、結局定着しないということなのでしょうか。
というわけで、ぼくはたぶん「さ」を使えないまま死んでいくんだろうなと思うのですが、最近心底吃驚仰天しているのが、今の岡山の高校生は「さ」を平気で使っているんですね。「だからさあ、LINEでさあ・・。」なんて当たり前のようにしゃべっていやがる。ぼくが十年も苦しんで越えられなかった垣根を、簡単に超えて。
どう解釈し、どう対応したらいいのか、心の整理がつきません。