港は
満月にぬれて真昼のように明るかった
沖合いから吹く風は
見知らぬ顔を乗せて渡ってきた
顔はあとからあとから 現れて数しれない
生きているとも思われぬ蒼白の顔だ
もはや怒ることも呪うことも忘れた顔だ
顔は
現れては消え
消えては現れる
あゝ
過ぎゆく顔の湛える哀しみ
深い深い哀しみ
この哀しみは滲み通らずにはいないだろう
この邦の
隅々にまで。