名古屋で会社勤めの頃、正月は鉄道を使った一人旅と決めていた。岡山の実家へ帰省する気などサラサラ無かった。
あの年は、新日鉄の工場の灯が消えた釜石という街が無性に見たくなって、日本海岸ルートから岩手・釜石市を目指した。
夕方、駅について、電柱に貼り紙してある木賃宿に電話して宿を取る。広い掘りごたつで、宿泊客みんなでアットホームな食事を済ませ、ひとり釜石の街へ出た。電車に乗って、新日鉄の工場の方へ向かう。
工場を見たあと、新日鉄釜石のラグビー場はないかなと散策する。堤防をあてもなく歩いたら、ラグビー場が眼下に見えた。
あれだ!
建物の灯りだけが頼りの暗がりの中、一目散に土手を駆け下り、ラグビー場に走る。所々に芝生がある。ラグビー場まであと少し。
思いっきり芝生に踏み込んだら、一瞬のうちにバシャンと音を立てて頭のてっぺんまで水没した。芝生だと思ったのは、なんと小さな池だった。薄く氷も張っている。しばし呆然としたのち、池から這い上がって、あまりの恥ずかしさに、周囲を見回したのは言うまでもない。
場所は東北・釜石。時は1月厳冬期。ずぶ濡れの体に寒風がしみる。でも、そのまま何とかラグビー場にたどり着き、歌うと決めていたユーミンの「ノーサイド」を大声で歌った。何やってんだろオレ。
きびすを返して、寒さをこらえて土手を走り、水をしたたらせながら電車に乗って宿に帰った。
旅の出来事はほとんど忘れている場合が多いけれど、絶対に忘れることのない思い出の街。あの街は今どうなっているのだろうか。遠くから憂えている。








